東京地方裁判所 平成6年(ワ)13425号 判決 1995年11月13日
原告
小出勝彦
同
小出聖子
同
梅沢かつ
同
原田吉三郎
同
大野利夫
同
三浦照明
同
礒陽子
同
山屋栄子
同
青木静子
同
青木久子
同
山中キミ子
同
梶田以佐夫
原告ら訴訟代理人弁護士
大崎康博
被告
松岡琢次
被告補助参加人
サンシコー株式会社
右代表者清算人
松岡琢次
主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告らに対し、別紙請求金額一覧表の各原告名欄記載の原告につき請求金額欄記載の金額及び右金額に対する平成五年七月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 原告主張の請求原因事実
1 原告らは、昭和六二年五月当時、株式会社サンシコーの社員であり、被告は、株式会社サンシコーとコンサルタント契約を締結して、同社の経営上のすべての権限を委託されていた。(当事者間に争いがない。)
2 原告らは、その頃、株式会社サンシコーの社員一八名とともに、被告を選定当事者に選定し、被告に対し、同社の取引先に対する製本加工代金債権の債権差押命令の申立を委任した(以下「本件差押命令委任契約」という。)。(当事者間に争いがない。)
3 被告は、同月二一日、右三〇名の選定当事者及び債権者本人として、東京地方裁判所に対し、株式会社サンシコーに対する給与債権合計二〇八九万八六五六円(昭和六一年一二月分ないし昭和六二年四月分中の未払額合計)の一般先取特権に基づき、株式会社学習研究社、株式会社偕成社及び株式会社童心社に対する株式会社サンシコーの製本加工代金債権の債権差押命令を申立て、同裁判所は、同年六月一日、右製本加工代金債権について債権差押命令(同裁判所昭和六二年(ナ)第八四三号事件。以下「本件債権差押命令」という。)を発し、被告は、東京地方裁判所から、本件債権差押命令により、原告らのために合計六九三万八六二八円の配当金の支払を受けた。(被告が右三〇名の選定当事者として東京地方裁判所に対し給与債権合計二〇四〇万五五八一円の一般先取特権に基づき株式会社学習研究社、株式会社偕成社及び株式会社童心社に対する株式会社サンシコーの製本加工代金債権の債権差押命令を申立て、同裁判所が本件債権差押命令を発した事実は当事者間に争いがない。)
4 よって、原告らは、被告に対し、本件差押命令委任契約に基づき、被告が東京地方裁判所から支払を受けた配当金合計六九三万八六二八円について別紙請求債権一覧表の各原告名欄記載の原告につき請求金額欄記載の金額及び右金額に対する平成五年七月一五日(内容証明郵便による催告書送達の翌日)から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。
二 争点
1 本件差押命令委任契約は、株式会社サンシコーの取引先に対する製本加工代金債権が同社の債権者から仮差押されて、同社がその支払を受けることができなくなったことから、株式会社サンシコーが右製本加工代金の回収を図る便法として、原告らが被告を選定当事者に選定して、社員の給与債権の一般先取特権に基づき債権差押命令を申立て、債権差押命令による配当金を株式会社サンシコーに入れることを図って、締結されたものであるから、通謀虚偽表示により無効であるか。
2 本件債権差押命令は、原告ら及び株式会社サンシコーの社員一八名から選定された被告が選定当事者としてその申立をしているが、被告は同社の社員でないので、被選定資格を欠いており、効力がないか。
3 被告は、東京地方裁判所から、本件債権差押命令により、原告らのために合計六九三万八六二八円の配当金の支払を受けたか。
4 原告らは、本件債権差押命令により担保債権である原告らの給与債権につき配当金を受けながら、株式会社サンシコーから右給与債権のすべてについて支払を受けたので、株式会社サンシコーは、原告らに対し、右二重に支払を受けた給与につき不当利得返還請求権を有するか。被告は、株式会社サンシコーに対して有する貸付金債権一億〇一七一万八六四〇円についての債権者代位により、右不当利得返還請求権と本訴請求権とを対当額で相殺することができるか。
第三 争点に対する判断
一 争点1について
甲第一号証、乙第一号証の一ないし七、乙第二号証の一ないし七、乙第三号証、乙第四号証の一、乙第六号証の一ないし七、乙第七号証の一ないし四、乙第八号証、乙第一二号証、乙第一六号証の一ないし三、乙第一七号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によれば、株式会社サンシコーは、昭和六二年五月中頃、同月末が支払期の同年四月分の売掛金(製本加工代金債権)合計約二〇〇〇万円について同社の債権者から仮差押され、同月末にその支払を受ける見込みがなくなったこと、その頃、社員の給与は支払が遅れており、早急にそのための資金が必要であったが、その当てがなかったので、被告は、仮差押された製本加工代金債権について社員の給与債権の一般先取特権に基づき債権差押命令を申立て、債権差押命令による配当金を株式会社サンシコーに入れて、社員の給与の支払に当てることを計画したこと、被告は、原告らを含む社員には「遅れている未払の給与債権で差押をして売掛金を回収し、会社から給与を支払う。」と簡単に説明し、原告ら及び社員一八名が被告を選定当事者に選定する手続を採ったこと、被告は、担保債権として、右三〇名及び被告が株式会社サンシコーに対し昭和六一年一二月分ないし昭和六二年四月分中の未払の給与債権が合計二〇八九万八六五六円であることにして、債権差押命令の申立をしたが、実際には、昭和六一年一二月分ないし昭和六二年一月分の給与に未払はなく、同年二、三月分の未払給与額は過大に記載され、被告は社員でないので給与債権者ではなかったこと、被告は、配当手続により、同年一一月一〇日、東京地方裁判所から、株式会社学習研究社の供託分八二万六五〇〇円、株式会社偕成社の供託分一〇八九万六四三七円及び株式会社童心社の供託分一〇〇万七九五九円の各支払を受けたが、右全額を右各社に対する売掛金として株式会社サンシコーに入金していることが認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。
そうとすれば、本件差押命令委任契約は、株式会社サンシコーが売掛金の回収を図る便法として、原告らが被告を選定当事者に選定して、社員の給料債権の一般先取特権に基づき債権差押命令を申立て、債権差押命令による配当金を株式会社サンシコーに入れることを図って、締結されたものであるから、通謀虚偽表示により無効である。
二 争点2ないし4について
前項により、原告らの本訴請求は理由がないと認められるので、判断するまでもない。
(裁判官大島崇志)
別紙請求金額一覧表<省略>